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貴女に溺れて彷徨う
第2章 醜いものは塗り隠せばいい
「莉世さん莉世さん」
ひなたの甘ったるい声が至近に触れて、横目に見るのも眩しい大きな目があたしを見上げた。
スミレのカクテル一杯も飲みきっていないひなたは、今すぐ連れ帰って介抱してやりたいほど巧い具合の酔った芝居で、薔薇色のエナメルが指先に載った繊手をあたしに絡める。
「ひぃも、稲本さんは遊びにしておいて欲しいですぅ」
「ひなたも応援してくれないの?」
「莉世さんが稲本さんとくっついたら、誰がひぃを可愛がってくれるんですか?」
ありったけの媚びた気色を浮かべる、白く小さなひなたの顔。Tenue de bonheurの、これでもかと言わんばかりに女子女子したコスメに彩られた彼女は、眉の尻まで隙がない。
カウンターの後方を確認すると、数組の客達が歓談に興じていた。
あたしはひなたのおとがいを持ち、顔を近づけるとキスをした。触れ合うだけの、一瞬の。
「可愛かったからご褒美」
「っ……」
「あんまりそういうこと言うと、本気になるからダメだよ」
「──……」
注文のカクテルを作り終えた睦が、踵を返した。
離れるのが遅れたひなたとあたしは、彼女の叱咤の眼差しを浴びる。
「人の店でイチャつかない。ほら、莉世も何か追加しな。デザートにグラスホッパーとかどう?」
「ミント系は、今飲んだしなぁ。なんか桃っぽいのが良い」
「了解」