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貴女に溺れて彷徨う
第2章 醜いものは塗り隠せばいい

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 これから夏本番の時期に、コスメ業界では秋の新作が発表されて、ショーケースには見本品が並び始める。

 Tenue de bonheurの今秋は、くすんだピンクやグレーのメインカラーが主役を張る。いつもよりこまやかなパールが煌めくラインナップのテーマは、無邪気な貴婦人の密かな楽しみだ。シルキーピンクに乳白色のスワロフスキーが煌めく容器は、あゆみの部屋の少女趣味な家具を思い出す。

 平日の比較的人の流れが少ない時間、あたしはひなたと購入する限定コスメを検討していた。


「ネイルは全色買いですね。ちょっとでも剥げると塗り直しますし、すぐなくなっちゃって……それにどの色もひぃの好みです」

「眠気やばい時に剥げると気が滅入るけどね。あと仕事終わったら、着替えるついでに落とすこともあるし」

「あっ、そっか……。ひぃは、気になりませんよぉ?面倒だったら、つけたままで大丈夫ですからね」

「ラメや濃い色は、やる方が気になるんだよ。ただ、昨年の夏に出たシロップカラーは、落ちにくいのもあって罪悪感なかったなぁ。色がついてるの?ってくらい薄くてほぼ透明で、仕事だと重ね塗り必至なのはともかく。あれはオフの日の救世主」

「普通に可愛かったですしねぇ。ひぃ、まだ持ってます」

「さらさらしてて、減りにくいよね」

「あっ」

「いらっしゃいませ。お伺いしま──…」


 露骨な話題をかき消す笑顔で、あたしは前触れなく現れた客に歩み寄る。

 慌てて顔を確かめて、はっとした。
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