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貴女に溺れて彷徨う
第2章 醜いものは塗り隠せばいい

 従業員用の出入り口へ向かう途中、すれ違う従業員達の誰もが、酩酊した具合に甘えるひなたを振り向きもしない。
 公共の場で戯れ合うカップルに非難するような人間は、非難出来るだけの余裕があるのだ。仕事上がりの女達など、皆、疲れ顔で、むくんだ脚を引きずって、このあとの予定か帰路に着くことしか考えていない。


 ちなみにあたしは、みなぎと喧嘩まではしていない。

 何故、言い返さないのか。受け入れてばかりいるから、相手だって調子に乗るのに。

 そうしたあたしの指摘に、みなぎは必要な時に出し損ねていた情熱を発散しでもするように、抗議した。彼女に関してあたしが女達についた嘘も、彼女には方便に聞こえなかったらしく、勝手なことを口走るなの一点張り。

 あたしは、その情熱こそ女達に向けてやるべきだったのだと言い返した。暗雲が立ち込める中、間にいたあゆみが一番気まずかったと思う。

 結局、あたしはみなぎよりあゆみの束の間の休息が台なしになるのに気が引けて、その場を離れた。


「莉世さんは、歯に衣着せませんもんね。そういうところカッコイイです」

「褒めてないでしょ。ってか、ひなたって何でもカッコイイって言うよね。口癖?」

「そんなわけないじゃないですかぁ。でも、ひぃを助けてくれたのは莉世さんです。莉世さんに出逢えなかったら、ひぃは今頃、こんなに元気に暮らしていなかったかも知れません」


 無邪気に目を細める後輩は、Tenue de bonheurに入ってきた頃、ほとんどこんな顔を見せることがなかった。
 どこか卑屈で自己評価が低く、疑い深い。見た目こそ当時から華はあったにしても、今からすれば考えられない。
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