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貴女に溺れて彷徨う
第2章 醜いものは塗り隠せばいい


 それでも、あたしはひなたを目で追っていた。いつからかは分からない。

 春色の肌、可憐なパーツを寄せ集めた小さな顔、Tenue de bonheurのモデルが日本人なら間違いなく適任だったろうひなたは、フォーマルな制服も彼女がまとうとドレスに見える。薄ピンクのジャケットをほど良く盛り上げる胸の形に、細いウエスト、そこから尻にかけての成熟した曲線に、膝丈の裾から伸びたふくらはぎの柔らかさ──…どこもかしこも、彼女はまるで赤い果実だ。


「仕事は慣れた?」


 その日は雨が降っていた。

 館内にまで差し響く外の湿気と、からっとしたエアコンの冷気に心地良さを覚えていた午後、あたしはひなたに声をかけた。


「有り難うございます。ほどほどには」

「だろうね。前は営業していたんだっけ。甘利さん可愛いから、あたしも貴女みたいな店員さんに勧められたらコロっとやられる」

「……それは、私が顔だけという意味ですか?」

「可愛いのは良いことじゃない。化粧も実力の一つだよ。つまり顔だけじゃない」

「よく分かりませんが、私、売るのは全然、得意じゃないんで」



 無言の拒絶をひなたから感じた。

 汚れてもいない商品棚にはたきを滑らせ始めたところからして、無理にでも話を中断したかったのは明白だ。
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