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貴女に溺れて彷徨う
第2章 醜いものは塗り隠せばいい


 ひなたが知りたい。誰からも愛されるような彼女の表層にくるまれた、硬く透明な殻の内側、彼女が守り隠してきた脆さに触れたい。


 それから定時に上がったあたしは、ニ、三時間を近くのカフェで過ごし、閉館時間に従業員用出入り口へ引き返した。



「お疲れ様、甘利さん」


 ひなたの大きな目が、余計に大きく見開いた。
 綺麗な眼球がこぼれ落ちてしまう。そんな懸念がよぎるほど、薄い頬の真上に煌めく双眸は、夜闇にもよく映えていた。


「何で、高垣さんがいるんですか」

「可愛い子を待ち伏せするのは、人として当然の習性だよ。帰ろ」

「…………」

「家、ご家族は?」

「一人です」

「じゃあ、家来て。ウチ、親は隣の部屋に住んでるから」


 露骨にイヤな顔を見せながら、ひなたはあたしに従った。話しかければ渋々、口を開いてくれた。



「甘利さんって、好きな人いるの?」

 
 天気の話でもしている調子であたしが投げた質問は、ひなたの抱えている爆弾に触れるようなものだった。
 化粧崩れとは無縁の顔が、歪み、白々しい愛想笑いを浮かべようとした彼女は刹那たゆたったあと、作り物の感情を仕舞い込んだ。


「どういうつもりですか」

「いないなら、立候補しようかなって」

「何言ってるんですか、私が……どういう気持ちで……」


 胸がざわついたのはすぐのことだ。

 様子がおかしい。

 蒼白になり小刻みに震える彼女は、何かの発作が起きでもした具合に、心なしか息遣いまで本人の意思を離れている。
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