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貴女に溺れて彷徨う
第2章 醜いものは塗り隠せばいい
そこからの道中、ひなたは初めて多弁になった。
観念したのかやけになったのか、包み隠さなくなった彼女の口から、あたしは転職の経緯を知った。縮約すれば失恋だ。
ひなたは、前の会社で上司の一人と婚約していた。両親への挨拶も済ませて、式の日取りまで決まっていた。彼女は屈指の美人社員として評判で、上司の方も人望厚く、将来有望だったという。
誰の目にも完璧と映っていたカップルは、前触れなく破綻した。原因は、男の浮気だ。
「家庭的で清楚で穏やかで、仕事もそこまで忙しくない彼女が可愛いかったんですって。私じゃ満たせなかった部分が、彼女といると補えた。目移りしたのは仕方ない、と言われました。私には折を見て話すつもりだった、とも」
あたしの中で、ひなたに関するあらゆる糸が繋がった。
他人との距離を置くことは、彼女にとって防衛だった。誰かを信じれば絶望の種を撒くことになる。優れた容姿も業績も、彼女には何の意味も持たない。
誠実を絵に描いたようだった男の表層が剥がせば不実のマチエールだったのだから、あたしが顔も知らない裏切り者をこきおろそうと、彼女は一時の同情としてしか受け取らなかった。