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貴女に溺れて彷徨う
第1章 眠り姫は魔法で目覚める
あたしがこんな奇行に走ったのは、孤独だからだ。
恋人がいなくて十年以上経つ。このままでは、老後、誰にも気づかれずひっそりと息を引き取って、何日も経ってから発見される。焦って相談した睦の、結婚相談所へでも行けばという冗談から、あたしはマッチングアプリをダウンロードした。
「ァンっ……もぉ一回っ……、キスして……欲しいですぅ……」
「もう、甘えん坊さんだな」
小鳥が啄み合うのとは格段に違う、恋人同士を気取ったみたいなキスの息遣いが耳に入っても、今のあたしがうっとりするのは優香からの返信だ。
よそゆきの口調、適度に積極的で、適度に女をアピールした文体は、何だか特別感がある。
『では、次の土曜日正午に、◯◯駅東改札口でお待ちしています』
『優香さんに会えるのを楽しみにしてるね。分からなかったらメッセージちょうだい』
『はい。多分、Samanthaの花柄のバッグを持っていると思います』
そんなブランド、男だったら見分けつかないんじゃないか。それか花柄で知ったかぶりを装えるのか。
どうでも良いところに着眼して、あたしはスマホをバッグに仕舞った。