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貴女に溺れて彷徨う
第1章 眠り姫は魔法で目覚める
* * * * * * *
出逢いを求める場所なら他にもあった。それでもあたしが性別を偽ってまでマッチングアプリを選んだのは、馴れ初めが劇的な方が発展も詩的だろうと期待したからだ。
だのに当日、いざ待ち合わせ場所で花柄のバッグを探したあたしは、劇的どころか現実的な再会を引き寄せていたことに気づく。
市内に住む三十四歳の事務員など、掃いて捨てるほどいる。掃いて捨てるほどいるのに、よりによってそれは、高校の元同級生だった。
「優香さん……?」
僅かに肩を震わせた優香は、あたしの顔をまじまじと見た。更に数秒後、悪戯が見つかった子供のようだった彼女の顔は、何事もなかったのだと言わんばかりの笑みを張りつけた。
「高垣さん?!すぐ分かった!うそっ、偶然、ビックリして心臓止まるかと思った」
「あたしもビックリ。この辺に住んでたんだ」
「地元離れた子も結構いるしね。何で何で?懐かしい!そのワンピ、LIS LISA?未だにそういうの似合うのすごっ……昔から可愛かったもんねぇ」
「井山さんこそ相変わらず美人さん。白似合う。デキる女って感じ」
「デキないデキない。高垣さんは、Tenue de bonheurだっけ。有名どころじゃない」
その通りだ。マッチングアプリでは販売員だと自称していたあたしの本職は、コスメブランドTenue de bonheurの美容部員。
もちろん優香は待ち合わせ相手があたしだなんて、まだ夢にも思っていないだろう。