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貴女に溺れて彷徨う
第2章 醜いものは塗り隠せばいい
帰り着くと、今やひなたの特等席とも言えるリビングの壁際に彼女を待たせ、あたしはキッチンの冷蔵庫を開けた。
世間話でもする調子で、後方のひなたに声をかける。
「結局、ひなたのこと裏切っちゃったね」
「何の話ですかぁ?」
「ひなたは一途な人が好きなのに。あたし、そういうのとは無縁だし。傷つけたよね」
「今更ー。莉世さんの有言実行なところ、ひぃは好きだから良いですよぉ」
からからと笑うひなたは、本当にTenue de bonheurに入ったばかりの頃からすれば考えられない。
「あの人を忘れたくて仕事もやめて、全然違う環境に飛び込んできて。ひぃが追いかけてた幸せなんて、広い世界の断片でしかなかったんだなって、莉世さんに気づかされました。変わらないものなんてない。自分のために生きる勇気は、悪いことでもわがままでもない……って」
「…………」
「もしひぃがあのままだったとしても、あの人はひぃのことなんか忘れてたと思います。ひぃだけうじうじしてたら、悔しいです。でも莉世さんとあの人は、同じじゃないです。稲本さんのこと裏切りなんて、思ったこともありません。大好きです」
本当に素直だ、と思う。
みなぎに出逢ったのは間違いだったのかも知れない。間違いかも知れなくても、出逢いに間違いも正解もない。
あたしもひなたが好きで、その感情がどんなかたちをしていようと、彼女の側を離れられない根拠としては十分だ。