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貴女に溺れて彷徨う
第2章 醜いものは塗り隠せばいい
* * * * * * *
父親を連れた二十歳前後の女の子のタッチアップを終えたあたしは、Tenue de bonheurの肌のトーンが一段階明るくなった彼女に向かって、いかがですかと鏡越しに笑いかけた。
化粧を施したばかりの女の顔は、さしずめ人形だ。生まれてまもない芸術品。日の光も荒風もまだ知らない、そうして何度でも真っ新な生を歩み出せるのではないかと思う。
「可愛いー!人形みたい!ね、お父さん、やばいでしょ、ここのコスメ」
「若いんだから何しても可愛いよ。それにしてもお前、自分で可愛いとか言えるのは、幸せなヤツだな」
「私はお姉さんを称賛してるの。ここのお姉さん、お化粧上手いでしょ。さすが店員さんだよねぇ」
「有り難うございます。お嬢さんが可愛くて、気合い入っちゃいました」
「ひゃぁっ、そうですか?!嬉しいです」
女の子は誕生日らしい。
新色のピンクみの強いフェイスパウダーとハイライト、今夏の限定アイライナーとチークをねだった娘に、プライマーは良かったのかと父親が問う。
「欲しいけど定番だし、パウダーはたけば目立たないし。試供品もらえるキャンペーンがあるから、もう少し使ってから考えるよ」
「次はないぞ?今年の誕生日は今日だけだ」
「良いのぉ……?」
「お母さんには内緒な」
「有り難う!」
結局あたしは、彼女の選んだピンクとパープルのプライマーもプレゼントボックスに包み込む。二色あるのはどちらかに絞れなかったらしく、どうせ消耗品なら買えば良い、と父親が口を挟んだからだ。