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貴女に溺れて彷徨う
第2章 醜いものは塗り隠せばいい
「有り難うございました。またお待ちしております、お誕生日おめでとうございます」
「有り難うございます。また来た時は、お姉さんにお世話になります」
にこやかに背中を向けた娘と父親を見送っていると、せりなが近づいてきた。
「あのお客さん、昨年もお父様と来てたわね」
「ねー。補充とかでよく来てくれるから久し振りな感じはしないけど、買えないからって気遣って、フルメイクさせてくれるのは年に一回だけ」
「莉世が好きそうな顔よね」
「好き好きっ、大学にああいう子いたら、間違いなく目で追いかけてた」
正直ね、と、呆れとも温かみともとれる溜め息をついたせりなが、瞬時に顔を切り替えた。
「いらっしゃいませ」
「あんた、やっと見つけたわよ」
とりわけ気取った買い物客が多くを占める百貨店、凄みを利かせた声の主は、なかなか印象的だった。
せりながプロ級のポーカーフェイスを僅かに歪めたので、あたしも客の人となりを確かめるために彼女の視線の先を追う。
顔を見て、ぎょっとした。
「…………っ!」
六十を過ぎたばかりのその女は、肌も弱くないのに化粧を一切していなかった。髪も手入れしているのか怪しいところで、洋服は何年前のものかと問いたくなる代物だ。いや、あたしが中学生の頃、同じものを彼女が着用しているのを見たことがあることからして、二十年は前のものか。