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貴女に溺れて彷徨う
第2章 醜いものは塗り隠せばいい
古い家で育ったからか、母が甘やかしていたからか、あたしの父親はいつまでも幼い男だった。父親という存在は尊重され、肯定されて当たり前と信じて疑わなかった彼は、少しでも気に入らないことがあると粘着質に母をなじる。共働きだったのにも関わらず、家の金は母の収入を含めて父が握っていたようだし、そのくせ家事は丸投げだった。
実害はなかったにしても、精神面の負担は十分に母を追いつめていた。離婚したあと人が変わったように明るくなった母と同様、あたしも削られることがなくなった。
叔母があたしを見つけたのは偶然だった。
いつまでも手がかりが掴めなかった末、百貨店で腹ごしらえをして興信所へでも向かおうとしていたところで、ここを通りかかったという。当時から休みの日は化粧していたあたしは、十八年経ったにも関わらず、ひと目で分かるほどには変わっていなかったらしい。
「あの尻軽はどこ?!あんた達どこに住んでるの?!逃がさないわよ、弟を見捨てるなら金で償ってもらうからね、母娘揃って地獄に堕ちろーーー!!!」
あたしが受話器を上げたその時、恐れていたことが起きた。よりによって常連客が、優雅な足どりで近づいてきたのだ。