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貴女に溺れて彷徨う
第2章 醜いものは塗り隠せばいい
大瀬は叔母を瞥見すると、あたしに売り場案内を依頼した。
通りがかりだったらしい。迷惑客があたしに恐喝しているのを見かけた彼女は、今日は立ち寄るつもりのなかったTenue de bonheurに足を向けないわけにはいかなくなったという。
「大瀬様、……」
「響で良いですよ、莉世さん」
「──……」
「店、離れたんですし。莉世さんって意外とマニュアルに従順なんですね」
ゆったりとした悪戯な口調、たおやかに目を細める常連客に、あたしは彼女を下の名前で呼び直す。
そろそろ警備員が行ってくれている頃だ。
礼を言い、来た道を引き返そうとしたあたしの後方から、響の声が追いかけてきた。
「私、莉世さんと話してみたかったんです。お気に入りのお店の、一番お世話になってる店員さんだから……」
「え、……」
「あ、それだけじゃないです。莉世さんって、パッと見は可愛いのに、なんか格好良くて、お化粧に詳しいし、タッチアップは心地が好くって…… 美容院で髪を洗ってもらっている時の感覚というか。って、これじゃ言い訳がましいナンパ客みたいですね」
おどおどした響の口ぶりは、端然とした人となりに反して可愛い。いっそ計算しているのではないかと疑る。
見た目をきっかけに声をかけられて眉をひそめるような女が、この世には何と多いことか。ナンパを否定していたら、人と人との出逢いなど、限られるのに。