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貴女に溺れて彷徨う
第2章 醜いものは塗り隠せばいい
「それ何だ」
「バター。貴方のはそこよ」
「違う。そのおかしい爪はなんだ」
「おかしいって──…」
胃の辺りがキュ……とつねられたような不快を追い払うようにして、私はバターナイフを先端が皿を鳴らすほどにはぞんざいに置いた。
莉世とこじれて三日が過ぎた。彼女に当たったことについては冷静さに欠いていたと、あとになって反省したけれど、彼女が今更この性格を諫めるとは思わなかった。ちなみに悪気もなかったようで、ともすれば私の怒りも伝わらなかったようで、翌日には何事もなかった調子でLINEが届いた。そして今日、偶然休みが一致した私達は、少し会うことになったのだ。
友人に会うくらいで爪を飾るなど、私が間違っていたのだろうか。
五分かけて焼いたトーストをものの一分で平らげた大雅は、新聞の所在を私に訊ねた。私は、まだ外気の温度の残った真新しい朝刊を手渡す。
「サラダは?それにスープも。食べてないじゃない」
「食えるかよ。娘の前で、あまりみっともない話をさせないでくれ。……おい、あゆみ。そこにレトルト味噌汁があるから、お父さんの分も入れて」
「味噌汁が良かったの?」
「お前、その爪で作ったんだろ。俺達を殺す気か。着色料、入ってたら気持ち悪いだろ。今日中に拭いておけよ。明日は店なんだからな」
席を立ち、私はあゆみに朝食を続けるよう言いつけて、二人分の椀をテーブルに並べる。
水を火にかけながら、鍋の中で小さな気泡が生まれ出すのとは逆に、私の体内は熱を失くしていく。