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貴女に溺れて彷徨う
第1章 眠り姫は魔法で目覚める
昼下がりのカフェのテラスで、あたし達は同じケーキスタンドに盛られた軽食をつまんでいた。お茶を啜りながら眺める雑踏は、通行人が皆、同じ顔に見える。
優香もあたしも、派手でもなければ地味でもないグループにいた。つまり女子にありがちな派閥などとも外れていただけあって、昔話もなごやかなものだ。
「ところで、蜷島さんって覚えてる?」
聞き馴染みのない苗字が優香の口から出てきたのは、アイスティーの氷が角を失くしてきた頃だ。
アールグレイとミルクが薄まって、少し風味のついた水。今の季節には喉が潤う。
「えっと、……」
「合唱部にいた人。おとなしくて真面目で、いつもこの辺で、髪一つに結んでた」
「いた?」
「仕方ないか。影薄かったしね……」
優香が身振り手振りジェスチャーするほど、蜷島さんとやらの輪郭が遠ざかる。
「私、最近、彼女とも再会したの。行きつけのクリーニング店でね」
「ふぅん」
「そしたら、少しは話してくれるようになってて。学校いた頃、たまに話しかけてもあんまり相手にしてくれなかったのにね。それでつい色々訊いちゃって」
楽しそうだな、と思う。
実は早々に切り上げて、アプリでメッセージの届いていた他の女の子に当たるつもりでいたあたしと違って、袖口にフリルのついた白いタイトなワンピースでめかし込んだ優香は悠長だ。結婚を急いでいる割りに。