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一度くらい夢を見たら
第3章 巧みな言葉
少しうるんだ女の瞳を見て、
一丁上がり、と慎之介はほくそ笑んだ。
この女はもう暗示にかかっている。
いよいよ仕上げの時がきたようだ。
慎之介は目つきと態度を変えた。
「奥さん・・あなた
気づいていないんじゃない?
ご自分がとても魅力的な女性だってこと」
「え?」
「オレがこうして声をかけたのだって、
ただ単に月刊官能を立ち読みしていたからって
わけじゃないですよ。
女性としても興味をそそられたから・・
でなきゃここまでしませんよ」
ふーっと長い息を鼻から吐き出して、
それから美奈枝の眼を瞬きもせずに見つめ続ける。
しだいに眼に薄紅がさす。
乾き目がもたらした現象だが、美奈枝からしてみれば
なんとも思いつめた眼差し、と取りたくなってしまう。
「偶然ってさ、必然を呼び込むための
前ふりだって思うんだよね。
あなたと本屋で出くわしたのは偶然。
でもその偶然は必然になるためのものだった・・
奥さんのような女性に出会いたかったって
オレの願望が偶然を必然に変えたんだよ」
ゆっくりとした動作で男は立ち上がる。
向かいに座っている女の隣に移動して
そして体を寄せて座る。
男の二の腕が隙間なく押し付けられると、
皮膚から溶けていくような感覚に包まれ、
自然と男に体をよりかける。
・・この男に・・抱かれてみたい・・
肩に手を回し胸に引き寄せる慎之介に
体重から心から、すべてをよりかけた美奈枝は
静かに目を閉じる。
このまま突き進もう、と・・
「奥さんも・・これが必然だって、
思ってるんだよね?だからこうして
オレの部屋に来てオレの腕の中に包まれて、
目を閉じその時をまっているんだよね・・」
作家というのは、
なんてロマンチックな言葉で女を落とすのだろう・・
ますます美奈枝の期待は高まる。
きっと、夢のような
心地よい交尾ができるはずだ・・
自分から男の首に腕をからめ、キスをねだる。
それにこたえるように慎之介は、
女の頭を押さえつけ唇を重ねる。
大きくてほっそりとした男の手が
髪をまとめて止めているヘアクリップを外すと、
女の長い髪がはらはらと自由に波打つ。