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一度くらい夢を見たら
第2章 すごい偶然
狭い店内に大勢がひしめき合って座る
チェーン店のカフェを横目に通り過ぎ、
その3件先にある古びた建物の
1階に店を構える喫茶店のドアを男は開く。
ガラン・・と鳴ったカウベルの音に
懐かしさを感じた。
時代、だけではない。
直哉とよくこういった雰囲気の喫茶店にはいったな・・
という回想。
席に着くまではそんなセンチメンタルな気分に浸っていたが、
いざテーブルを挟んで男と相対すると、
途端に思考回路が動き出した。
・・ちょっと待ってよ、この男、
本当にあの小説の作家なの?・・
のこのこついてきて、
一緒に喫茶店に入ってテーブルに着いた
今頃になって、
大事なそれに気がついた。
立ち読みしていたら
その小説を書いたっていう作家に声をかけられるなんて。
そのうえこの小説の作者だという
証拠を見せられたわけじゃない。
名を尋ねて作者の名を名乗ったとしても、
そんなのあらかじめ確認しておけば
誰でもなりすますことができる。
そんな肝心なことに気がつかないで
なんでホイホイついてきちゃったんだろう、あたし・・
・・ちゃんと確かめてみなくちゃ・・
戦闘態勢に気持ちを切り替え
顔をまっすぐ男に向けると同時に、
「何にします?よかったらケーキもどうぞ」
そう言いながらメニューを鼻先に差し出した
男と目があった。
美奈枝の目つきに、すぐに感づいた男は
「言いたい事、わかりました。
とりあえず先に注文しましょう」
と先手を打つようなセリフを口にした。
メニューのケーキの写真を目の前で見せつけられると、
気持ちは簡単にケーキにむいた。
言われるままに
チーズケーキとコーヒーのセット、
と答えると男は、注文を取りに来た店員に
ケーキセット2つ、同じのね、と言った。
「甘いの、お好きなんですか?」
見かけとのギャップに驚かされた。
薄暗いバーで
ブランデーグラスを揺らしている姿なら
すぐにイメージできるが、
ケーキをほおばる姿はなかなか想像できなかった。