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琥珀色に染まるとき
第1章 雨に濡れたボディーガード
そう言って睨んでやったが、城戸は気にも留めない様子でいつものようにおどけてみせる。
「俺、二十七だよ。三つしか変わらないだろ」
綺麗に生え揃った白い歯を出して、にっ、という声でも聞こえてきそうな笑みを浮かべる。その無邪気な顔にとうとう呆れ笑いを引き出されてしまったとき、エレベーターが三階に着いた。
扉に近い位置に立つ城戸のそばをするりと抜けて通路に出ると、涼子は後ろを振り返った。エレベーターの中で手を振る男の無害な笑顔を見ていると、嫌みの一つでも言ってやりたくなる。
「上まで送れなんて言ってないわよ」
「はいはい。素直じゃない三十路女は嫌われますよ」
わざと敬語で返し、ふん、と鼻を鳴らした城戸は、涼子のスーツを指差しながら最後に言った。
「着替えたほうがいいぞ、それ」
直後、扉が閉まり、あたりは静かになった。
迎え梅雨の時期から梅雨明けまで、涼子は仕事中でも頭痛薬が手放せなくなる。そのことを城戸はいつも気にかけてくれていて、業務に支障がない限り同僚たちにも黙ってくれるという。
ただ、彼は頭痛の原因を知らない。
そのほうが好都合だ。誰かに知られたくはないし、誰にも言うつもりはない。
雨に濡れたスーツを見下ろし、涼子は小さくため息をついた。