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琥珀色に染まるとき
第8章 慈しめば涙してⅡ

 彼は、しばらくそのままでいてくれた。耳元で彼の甘い息遣いだけが流れる静かな空間の中、まるで初めてを捧げているような不思議な幸福感に包まれる。
 西嶋が最大限尽くそうとしてくれていることを、涼子は肌で感じた。彼は恐怖に震える胸にぬくもりを与え、乾いた心に潤いをもたらしてくれる。

 これまで長いこと避けてきた世界へ再び足を踏み入れようと思えたのは、西嶋に出会い、特別な感情を抱いたからだ。そうでなければ、胸に残った傷痕は一生消えない黒い影となり、すべてを覆いくしていただろう。

 熱と湿気を帯びた素肌にまとわりつく、甘ったるい空気に包まれ、西嶋は最後まで優しく導いてくれた。
 久々の感覚に眉を寄せる涼子を、焦ることなくゆっくり昇らせようと、辛抱強く自身を抑えていた。だがいくら彼が自らを抑制しても、与えられる快感は十分すぎるほどに的確だった。最初に感じた痛みなど、すっかり意識から抜け落ちてしまうほどに。

「ああっ、西嶋さん……っ」
「はっ……涼子……」

 彼と繋がっている奥底が、まるでそこから炎が湧き上がるかのように熱い。
 快楽の渦に溺れて意識を手放しそうになるのを、寸前のところでたくましい腕の中に強く引き戻された。

「涼子……あぁ……」

 ようやく彼が“その時”を迎える頃、涙でにじむ視界の向こうに見えたのは、美しく揺れるヘーゼルだった。その瞳に抱かれながら、涼子は自らの無防備な欲望をあらわにする。彼はそのすべてを受け入れてくれる。
 中にいる彼が極限まで昂まると、その端正な顔は苦しげに歪んだ。直後、身体が折れるかと思うほどに強く抱きしめられ、最奥で熱い欲望が放たれた。

 身体の奥から全身に広がる悦びに身を任せながら、薄い膜越しに、脈打つ獣の存在を涼子はたしかに感じた。頭から足の先まで襲う甘い痺れが、半開きの唇から声にならない声となり、消えていった。
 今ならすべてを忘れられる――と思った。過去のことも、自分のことさえも。

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