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琥珀色に染まるとき
第8章 慈しめば涙してⅡ

しかし、どうしても気になることがある。
西嶋の優しい微笑み、困ったような顔、熱を帯びたまなざしと、それに反して怖いくらい冷静な声――そこに、深い哀愁が漂っているように思えてならないのだ。女の勘はするどいというが、危険を察知する能力ともいえるそれが心をちくちくと突ついてくる。
彼は、誰にも言えない寂しさを背負っている。きっと気のせいではない。涼子はそう確信していた。
――だって、私も同じだから。
もっと知りたい。もっと、本当の彼を知りたい。西嶋のことを想えば想うほど、そう感じずにはいられなかった。
シャワーを終え、濡れた身体をバスタオルで拭きながら洗面台の前に立つ。
鏡に映る自分を見つめ、涼子は左胸の傷痕に指を添えた。そこに触れた西嶋の指と舌の感触を思い出し、とっさに手を離す。
バスタオルを広げて素肌の上に巻く。用意されている室内着を身につけようと思わなかったのは、なんとなく着る気になれないデザインだったからだ。
裸にバスタオル――そんな姿を西嶋はどう受け取るのだろう。“もう一度抱いてほしい”と捉えるだろうか。それでも構わないと思った。心の中に膨れ始めた女の欲望は、すでに自覚している。
そもそも彼だってバスタオル一枚で出てきたのだから、さほど気にする必要もないだろう。すでに肌を重ねた相手を前にして、今さらなにを身にまとってもたいした意味をなさないのだ。
なんだかおかしくなり、くすりと笑みをこぼすと、鏡の中の自分が苦笑を浮かべた。
部屋に戻ると、ベッドの奥にある二人がけのソファーに座る西嶋の姿が見えた。
ペットボトルの水を飲みながら視線だけ向けた彼は、一瞬驚いたように目を見開いた。だが核心には触れず、おいで、と言って微笑んだ。いちいち疑問を言葉にせずに見守るそのスタンスが、互いの間に柔らかな空気をもたらしてくれる。

