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琥珀色に染まるとき
第8章 慈しめば涙してⅡ

 もしや、照れ隠しだろうか。その考えがよぎった瞬間、目の前で苦笑する大人の男を可愛いと思った。心の声が通じたのか、彼は諦めたように穏やかに微笑む。だが次の瞬間、彼の綺麗な瞳がぎらりと妖しく色めいた。

「……あっ」

 凶暴な硬さを宿した彼のそれが、秘芯と蜜口をこするように行き来する。溢れ出た愛液にまみれて、耳を塞ぎたくなるくらい淫猥な音を奏でながら。

「んっ、やだ……そんなに……」

 しつこいほどの焦らしに、祈るような視線を送れば、にやりと意地悪な笑みを返される。

「……っ、あぁ……」

 これほど始末に負えない照れ隠しのやり方があるものかと、痺れる脳内で毒づきながらも、涼子は愛おしい男の分身を自らの中へ招き入れたのだった。


***

 外の空気は、ほんのり夏の匂いがした。
 空はすでに白み始めている。じきに日が昇るだろう。

 近づいてくるタクシーを眺めながら、今日は仕事が休みでよかったと胸を撫で下ろす。
 休日にもかかわらずこうして明け方に帰るのは、夜にはまた店を開けなければならない西嶋を気遣ってのことだ。無論、すべての力が抜け落ちた自分の身体を休ませるためでもある。

「じゃあな」

 優しい低音とともに、頭に乗せられた手のぬくもり。ふだんなら、誰かが頭に手を伸ばそうものならその腕を掴んで地面に叩きつけてやるところだが、西嶋は別だ。他人に頭を撫でられることがこれほどまでに心を和ませることを、涼子は知らなかった。

「また連絡するよ。おやすみ」
「はい。おやすみなさい」

 朝に交わす挨拶ではないと思いながらも笑顔で返すと、もう一度頭を撫でた彼は、最後に頬をするりとなぞり、困ったような笑みを浮かべた。
 やはりこの男は優しい。優しくて、哀しい――。ぼんやりと思いながら、涼子は一人でタクシーに乗った。

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