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琥珀色に染まるとき
第9章 追憶の淫雨

それが、悲劇の始まりだった。
女性に声をかけたことも、親身になって話を聞いたことも、実はストーカー被害に遭っているのだと打ち明けられたことも、警察に相談するようアドバイスしたことも、すべてがあの結果を招くきっかけになった。もっと違う方法で女性を救えていたら、最悪の結末を迎えずに済んだかもしれない。
しかし、すでに起こってしまった殺人事件を前に、仮定の話などなんの意味もなさなかった。
当時、犯人は殺意を否定していたが、殺意の有無など正直どうでもよかった。結果的に彼女の命が奪われたことに変わりないのだから。
腹の底で煮えたぎる怒りと悲しみをどこにぶつけたらいいのかわからなかった。最初は犯人に向かい、次第に警察へ、そして最後に、彼女と女性が拉致され陰惨な暴行を受けていた時間、笑顔で仕事をしていた自分自身に及んだ。
自分の知らぬ間に、彼女は独りこの世を去ったのだ。なぜもっと早く気づけなかったのだろう。なにも知らずにいた自分をどれだけ呪ったことか。
自責の念にとらわれていたあの頃は、間違いなく人生で最も失意の底に落ちていた。やり場のない激情が、先の見えない暗闇となってすべてを覆いつくしていた。太陽の光を失った世界は、色も、ぬくもりも、なにもかもが消えてしまったように思えた。
仕事にはそれまで以上に執着した。彼女を失ったことで心に生じた虚無感が余計にそうさせたのだろう。カウンターに立って客たちをもてなしている時間だけは、途方もない絶望感から離れることができた。やはりこの道で生きていこう――そう思えるほどに。
彼女が応援してくれた夢を実現させるという目標が、夜闇の向こうを照らす朝日のように揺るぎない道しるべとなり、生きる意味を与えてくれたのだ。

