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琥珀色に染まるとき
第9章 追憶の淫雨

努力が実ったのはその四年後だった。CLEYERA BARのオーナーや常連客の人脈に助けられ、三十歳で独立開業を果たした。
それから小さな店で一人、気ままに愉しくやってきた。常連客も増え、またここから新たな人の縁が繋がっていくのだと思うと感慨深いものがあった。
それに反して、急激に異性に対して淡泊になっていった。以前の店とは違ってほかに従業員がいないのをいいことに、あきらかに色目を使ってくる女性客が増えたのだ。客の増加や話題性は店主としてありがたいことではあったが、女たちの誘いに乗る気はさらさらなかった。不快感を与えない程度にうまくかわしながら、新たに誰かを好きになることもなく月日が過ぎた。
しかしながら、三十三を越えた頃からの女性関係はお世辞にも健全とはいえないものであった。世話になったオーナーも、古い友人も、『とうとう頭のネジが飛んだか』と本気で心配してくるほどだった。
たしかに狂っていたかもしれない、と今になって思う。彼女を永遠に失ってから、無意識的に貞操義務のようなものを自らに課していたのだとすれば、それが七年経って突然崩れ去ったのだから……。
事の始まりはある雨の夜、なんとなく彼女に似ている女と一夜をともにしたことだった。結局その女とは交際に至らなかったが、それを境に性に対するハードルが一気に下がった。それからは似ているか否かにかかわらず、一度限りの関係に納得してくれる女だけを抱いた。
彼女以上に夢中になれる女がいなかったのも事実だが、愛する誰かを再び失うのが怖かっただけかもしれない。しょせん、愚かで寂しい男の身勝手ないいわけである。

