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琥珀色に染まるとき
第9章 追憶の淫雨

 雨はだいぶ弱まってきた。
 包みをといたカサブランカを丁寧に差していく実耶の後ろで、その小さな身体が雨に濡れないよう傘を持ってやる。

「お兄さんは、バーテンダーのお仕事続けてますか?」
「ああ。今は店を持ってのんびりやっているよ」

 飛び跳ねるように振り返った彼女の表情は、やはり懐かしい面影を感じさせる。

「おめでとうございます! 独立の夢、叶えたんですね。よかったあ」
「ありがとう。気にしてくれていたんだね」
「もちろんですよ。お姉ちゃんの夢でもあったから」

 その言葉が合図のように、互いに墓石へ視線を戻す。花を飾り終えた実耶は、景仁の隣に並ぶと静かに語り出した。

「お姉ちゃんによく注意されました。バーテンじゃなくて、バーテンダーと呼びなさい。バーテンは蔑称だからだめ、って」
「ははは。なかなか厳しいな」
「そうですよ。あの頃、私まだ高校生ですよ? お酒も、夜のお仕事だってよく知らないのに」
「水商売の男と付き合うなんてやめろって友達に言われたことがそうとう気に障ったらしくてね。ずっと気にしていたみたいだ」
「そうそう。お兄さんは他の人になに言われても平然と流してたけど、お姉ちゃんが自分のことみたいにムキになってましたよね。本当お人好しっていうか、正義感強すぎっていうか」
「ふふ、そうだね」

 それからしばしの沈黙のあと、実耶は昔を懐かしむように小さな笑いをこぼした。

「本当にお姉ちゃんて正義感の塊みたいな人で、歳の離れた私のことをいつも護ってくれました。すごく可愛がってくれたし、ときには本気で叱ってくれて……母親が二人いるみたいでした」

 言葉のかわりに静かな微笑みを返せば、彼女も薄く笑み、こう続けた。

「私、お姉ちゃんに幸せになってほしかった」

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