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琥珀色に染まるとき
第10章 マホガニー色の幻
第十章 マホガニー色の幻
七月七日木曜日、午後十一時。
都会の街は明るすぎて、夜空に浮かぶ星たちをこの目で見ることはできない。それでも、天の川を挟んで向かい合う二つの星は間違いなくそこにいて、空を見上げることを忘れた人たちを見下ろしている。
フロントガラス越しに見えるのは、煌めくネオンと行き交う車のヘッドライトに照らされる夜の街。
後部座席には、過密スケジュールに疲れて今にも眠ってしまいそうな依頼人が背もたれに身体を預けている。長い一日が、終わりを迎える……。
「お疲れ様でした」
振り向いて静かに声をかけると、自分より十近く年上とは思えないほど美しい顔がふんわりと微笑んだ。その笑顔が、どことなく、彼女に似ている気がした。
警護車は植栽のほどこされた道路を抜け、ある高層マンションの地下駐車場に入る。車寄せに停車すると、涼子は助手席のドアを開けてすばやく車を降りた。
運転席から降りた城戸が車の左後方へ移動し、周囲の安全を確保する。いつ訪れるかわからない突然の襲撃にも対処できるよう、一瞬たりとも気は抜けない。
「こちらへ」
涼子は開けたドアに手を添えたまま、奥にいる依頼人に降車を促した。
城戸を車に残し、依頼人とともに駐車場エントランスから中に入る。重厚感のあるセキュリティーゲートを抜け、クラシックモダンデザインを基調とした高級ホテルのような共用部を過ぎ、エレベーターホールへ向かった。
高層階へ昇りエレベーターを降りると、目の前には開放感のある空間が広がる。そして、例のごとくホテルのような内廊下を進み、目的の部屋にたどりついた。
「では、私はこれで失礼いたします」
そう言って扉の前で静かに会釈すると、依頼人は美しい微笑をたたえ、ありがとう、と囁いた。この仕事に対する熱意が高まる瞬間だ。