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琥珀色に染まるとき
第10章 マホガニー色の幻
笑みを返して一礼し、扉が閉まるのを待ってから、涼子は颯爽と歩き出した。
かなり厳重なセキュリティーに護られているにもかかわらず、依頼人は部屋の前まで警護員が同行することを希望した。相手が同じ女だからこそ気軽に頼むことができたのだという。
「お疲れ様」
労いながら助手席に乗りこむと、運転席であくびを噛み殺していた城戸が、おう、と返事をした。
「眠いの?」
「いや、大丈夫」
「私が運転するわよ。かわって」
言うが早いか車を降り、さっと運転席側に回る。腕を組んでドアの前に立ち、顎で合図してみせると、城戸は苦笑しながら車を降りた。
「可愛げが足りねーよ」
「私たちの仕事に可愛げはいらないでしょう。必要なのは気遣いと、判断力と……」
「真面目かよ」
それぞれのドアから乗車すると、大きな身体を助手席の背もたれにうずめる城戸が言った。
「明美さんは、元気?」
「うん。相変わらずよ」
「そっか」
その小さな相づちに、涼子はハンドルを握る手に力を込めた。
明美の警護は、あれからすぐに打ち切られた。彼女がそう望んだからだ。
あの日の翌日、明美に電話をすると、彼女は意外にもあっけらかんとした口調で警護の中止を求めてきた。小林の逮捕に安心したのだ。まだ油断できない状況ではあったが、依頼人が望まないのに警護続行を強制することはできない。
それ以来、警護対象者としてではなく友人として、定期的に連絡を取り合ってきた。特に変わった様子はなく、勤め先も今のところは変える気がないという。