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琥珀色に染まるとき
第10章 マホガニー色の幻

明美の話によると、小林はその後、警察と検察の捜査を経て起訴された。逮捕から一ヶ月後の第一回公判で容疑を認め、第二回公判で執行猶予つきの有罪判決が下された。
あの男が刑務所に拘留されず、普通の社会生活を送っているという事実は信じがたいが、ひどく反省した様子で、もう二度と彼女には近づかないと誓っていたそうだ。
裁判などで余計な苦労をかける羽目になったことを明美に謝罪すると、彼女は笑って言った。『あのことがあったから私は自由になれたの。涼子さんのおかげだよ』、と。
変わらず毅然とした態度を崩さない明美に感心しながらも、涼子は彼女のことが心配で仕方なかった。あんなふうに怖い思いをして、明美も平気なはずがない。十一年前に自分をあんな目に遭わせたあの男が、今でも刑務所の中で生きていると思うだけで吐き気がするというのに、自分をストーキングしていた男が何事もなかったように外に出てくるなんて、絶対に平気なはずがないのだ。
小林逮捕の日がきっかけとなり、上司しか知らなかった涼子の過去は同僚たちにも知られることとなった。もちろん、城戸にも。彼らはこれまでと変わらずに仕事仲間として接してくれるが、それ以降、涼子はストーカー案件から外されることが多くなった。
やはり女には難しい――陰ではそんなふうに思われて、同情されているのかもしれない。そう思うと、自分が情けなくて、悔しかった。
その悔しさが、あらためて実感させてくれたのだ。自らの原点は、人を護りたいという強い意志にあるということを。

