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琥珀色に染まるとき
第10章 マホガニー色の幻

「こんなときにする話じゃないと思うんだけど」
「なによ」
「お前がこれまでと同じように接してくれて嬉しいよ。東雲らしいっていうかさ」
「…………」

 話の意図が掴めず、ハンドルに置いている手を意味もなく動かす。

「お前さ、あの日……」
「え?」
「明美さんのストーカーが捕まった日」

 城戸はそこまで言うと口を閉ざした。しばらくして、なんでもない、と呟いた。

「言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ」
「いや、いい。また今度にする」
「なにそれ」
「わりい。俺もちょっとおかいしいかも」
「俺も、ってなによ……」

 呆れた口調で毒を吐いてみたものの、内心では複雑な心境が表面に出ないよう取り繕うことで精一杯だった。
 あの日――西嶋と初めての夜を過ごしたあのときのことを思い出すと、どうしても彼の手や唇の感触が身体の中によみがえってしまうのだ。


 業務を終えて日付が変わる頃に帰宅すると、慌ただしくシャワーを浴び、涼子は再び出かける準備を始めた。

「……これでいいよね」

 姿見に映る自分の格好をまじまじと眺め、言い聞かせる。
 白いノースリーブに、黒のタイトスカート。これにピンヒールを合わせれば、まあ無難だろう。

「髪、どうしよう」

 さきほどから独り言が止まらない自覚はあるが、勝手に口から出てしまうのだから仕方ない。

「急がなきゃ……」

 こんなふうにプライベートで、誰かに見られることを意識してコーディネートするのは何年ぶりだろう。カールした暗髪をゆるくまとめ上げながら、涼子は思った。
 淡い色は似合わないとわかっているから、どんな組み合わせをしてもモノトーンにしかならないが。

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