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琥珀色に染まるとき
第10章 マホガニー色の幻

***

「表情筋が固まってるよ」

 カウンターの向こうから、色気のある低音が降ってきた。手元で揺らめく琥珀色から目線を上げれば、白いシャツに黒ベストを身にまとい、ネクタイを締めた美しい男が微笑んでいる。

「……そんなことないわ」

 顔色を変えずに答えたものの、内心では図星をつかれて焦っている。西嶋の言うとおり、表情はたしかに固いと思う。
 今夜こそ、自分の過去を打ち明けようと涼子は心に決めていた。自宅であんなに独り言が多かったのは緊張していたからだ。
 関係が深くなればなるほど、言いにくくなるのは目に見えている。

 入り口で扉の開く音がした。涼子の他に三名が席を埋める店内に、新たな客が入ってくる。

「やあ。下で響と一緒になってね」
「マスター、こんばんは」

 男二人組の声に視線を移すと、見たことのある顔がそこにあった。

「あ……タツ、さん」
「涼子さんじゃないか」

 こちらへ歩み寄る男に声をかければ、彼はその彫りの深い顔に優しい笑いじわを作った。覚えていてくれて嬉しいよ、と囁いたタツは、ちょうどあいている隣の席に座ることを望んだ。それを快く受け入れると、その後ろからもう一人の男が顔を出した。

「ごめんね、お姉さん。野郎二人に挟まれても大丈夫?」
「いえ、私が端に移動しますよ」

 彼らが並べるよう席を譲ろうとしたが、ひらひらと手を振って断られる。

「いいのいいの。ここが俺の特等席だし、五十過ぎたおっさんと仲良く並んで飲みたいわけでもないからね」
「そりゃ嬉しいね。私も小便臭いガキより、美女の隣のほうがありがたいよ」

 甘いマスクで微笑みながら壁際の席に座る若者に、タツも毒舌を放つと上品な仕草で腰かけた。奇妙なスリーショットができあがった。

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