この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
琥珀色に染まるとき
第10章 マホガニー色の幻

***
「表情筋が固まってるよ」
カウンターの向こうから、色気のある低音が降ってきた。手元で揺らめく琥珀色から目線を上げれば、白いシャツに黒ベストを身にまとい、ネクタイを締めた美しい男が微笑んでいる。
「……そんなことないわ」
顔色を変えずに答えたものの、内心では図星をつかれて焦っている。西嶋の言うとおり、表情はたしかに固いと思う。
今夜こそ、自分の過去を打ち明けようと涼子は心に決めていた。自宅であんなに独り言が多かったのは緊張していたからだ。
関係が深くなればなるほど、言いにくくなるのは目に見えている。
入り口で扉の開く音がした。涼子の他に三名が席を埋める店内に、新たな客が入ってくる。
「やあ。下で響と一緒になってね」
「マスター、こんばんは」
男二人組の声に視線を移すと、見たことのある顔がそこにあった。
「あ……タツ、さん」
「涼子さんじゃないか」
こちらへ歩み寄る男に声をかければ、彼はその彫りの深い顔に優しい笑いじわを作った。覚えていてくれて嬉しいよ、と囁いたタツは、ちょうどあいている隣の席に座ることを望んだ。それを快く受け入れると、その後ろからもう一人の男が顔を出した。
「ごめんね、お姉さん。野郎二人に挟まれても大丈夫?」
「いえ、私が端に移動しますよ」
彼らが並べるよう席を譲ろうとしたが、ひらひらと手を振って断られる。
「いいのいいの。ここが俺の特等席だし、五十過ぎたおっさんと仲良く並んで飲みたいわけでもないからね」
「そりゃ嬉しいね。私も小便臭いガキより、美女の隣のほうがありがたいよ」
甘いマスクで微笑みながら壁際の席に座る若者に、タツも毒舌を放つと上品な仕草で腰かけた。奇妙なスリーショットができあがった。

