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琥珀色に染まるとき
第10章 マホガニー色の幻

「ところで、涼子さんはもうマスターの彼女なのかな」
愉しげに尋ねてきたタツは、いつかのように視線だけをこちらに向けていた。意味深な笑みを浮かべ、からりとグラスを鳴らす。まるで映画のワンシーンのような光景に圧倒される。
「あの……」
「お、この間みたいに即座に否定しないということは、やはりそういうことになったのかい」
タツは例のごとく推理を始める。まだほかの客が残る店内でそういう話題に触れていいのだろうか。
そもそも私は彼の恋人なのだろうか、と涼子は思った。なんの言葉もなく始まってしまった関係は、どこまでも曖昧だ。
西嶋に視線で訴えると、返されたのは優しい微笑だった。形の良い唇がゆっくりと動く。
「はい。おかげさまで」
優しいが、はっきりと発音されたその低い声に、離れた席から絶えず聞こえていたカップルの会話がやんだ。
おおっ、と小さく声をあげた響が、目にかかるブロンドを長い指でさらりとかき上げる。
「やっぱりね。俺、この前涼子さんのこと見たんだよ。外で酔っ払いに絡まれてたでしょ?」
「え」
「明美ちゃんのこと追っかけてた男」
「あっ、あのとき電話していた……」
小林と対峙したとき、ビルから出てきた男女だ。どうりで見覚えがあると思った。
「俺が警察に連絡したの。明美ちゃんがここに来たとき、俺もいたから」
「そうだったのね」
「あのとき知り合いが何人か見てたらしいんだよね。マスターが背の高い美人と抱き合ってるの。それで最近、マスターに彼女ができたっぽいって噂になってたんだよ。一見地味だけど色気がヤバイってね。だからさっき涼子さんを見てすぐわかったよ」
「……そう」
「なんか着物似合いそうだよね。妖艶な感じ。マスターは和風エロが好みだったのか」
マイペースに話を続ける響を見守る西嶋も、どこか複雑そうな、諦めたような笑みを隠せていない。

