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琥珀色に染まるとき
第10章 マホガニー色の幻

「えっと……俺らみたいに死ぬほど疲れた人間が、頼って帰ってくる場所ってこと?」
「そんなところだろう。素敵じゃないか、マスター」
「なんかお洒落だよね」

 タツと響が次々に感心する声をあげる中、涼子は黙って西嶋を見つめ続けた。その視線に気づいた彼が目を合わせてくれ、なんともいえない表情で薄く笑む。
 涼子は、ひざに置いた手をきつく握りしめ、耐えた。心臓を鷲掴みにされるような、理由のわからない息苦しさに。

「涼子さん。気分悪いの?」

 響が顔を覗きこんでくる。

「ううん、大丈夫よ。初めて聞くことだったから、ちょっとびっくりしたの」
「俺も、土に還るにはびびったよ。一瞬背筋が凍ったわ。危うく新しい噂が生まれるところだったね。幽霊が出るバーとかさ」
「そうね」

 微笑み返してやると、響は柔らかな茶色の瞳を輝かせ、安心したように甘い笑みを浮かべた。

「涼子さんは優しいね。でもさ、あんまり人に気を遣ってばかりじゃ疲れちゃうよ」
「え?」
「人の気持ちを察することも大事だけど、女の子なんだからもっとわがままでいいんだよ」
「あ……でも、ほら、もう女の子じゃないし……」
「なに言ってんの。好きな男の前ではいつまでも乙女でいなよ。マスターを落としたのはこの私よ、って堂々としてればいいの。わかった?」

 澄んだ瞳にじっと見つめられ、重苦しかった心臓が慌ただしく跳ねる。それに気づいているのか、響はにっこりと笑った。

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