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琥珀色に染まるとき
第10章 マホガニー色の幻

「この人は涼子さんの些細なわがままくらいじゃ怒らないよ。正真正銘、大人の男だから。むしろちょっと手がかかるくらいが愛嬌あっていいでしょ。ね?」
同意を求める響の視線の先には、西嶋の優しい微笑みがある。
当然ながら、店では基本的に多くを語らないのだろう。二人だけの会話ができないのは仕方ないが、彼がなにを思っているかわからないのはやはりつらい。
「それに関しては私も響に同感だ」
その声の主は、シガレットケースから煙草を一本取り出そうとしている。こちらを窺う彼に承諾の目配せをすると、ありがとう、と囁いたタツは煙草を咥え、特徴的な開閉音が有名な高級ライターで火をつけた。
こちらに煙が来ないように配慮しながら、彼は続ける。
「なんでも完璧で、ものわかりのいい女は気味が悪いぞ。息が抜けん」
「ぷぷ。前の奥さんはさぞかし完璧な女なんだろうね」
「お前、またあいつに言いつける気だろ。クソガキめ」
「褒めてたって言っといてあげるよ。あと、まだ好きだって」
「まったく、生意気な小僧が……」
タツが苦笑すると、響は無邪気に笑う。
スーツも小物も一目で質がいいとわかるものを身につけている完璧なタツでも、精神面で女に望むのは適度に崩れた癒しなのかもしれない。目が合うと、タツはその顔に危険な香りの漂うアダルトな微笑を浮かべた。
「マスターに飽きたら私のところにおいで。いつでも受け入れ態勢はできているから」
「あ、涼子さん、俺にも会いにきてね。うちの店、マスターには敵わないけどイイオトコ揃いだよ」
響のフレッシュで輝かしい笑みが、一瞬にして夜のネオン街を彷彿させる妖しいそれに変わった。

