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琥珀色に染まるとき
第10章 マホガニー色の幻

 開栓されたばかりのボトルからは、とくとく、という独特な音がする。瓶の中に液体が満たされているときにしか聴けない、すなわち、ボトルを開けて初めてウイスキーを注ぐ瞬間にしか聴けないその音に、うっとりと聴き入った。
 並んだ二つのグラス中で揺れる、濃いマホガニー色の液体。三十年という長い熟成年数を感じさせるその色は、シングルモルトのロールスロイスと称されるザ・マッカランにふさわしい美しさがある。

「乾杯」

 軽くグラスを上げてその言葉を交わし、唇を近づける。シェリーにオレンジ、ウッドスモークの香りのあとに、ドライフルーツの味わい、スパイスとオレンジの芳醇な余韻が長く続いた。

「美味しい……」

 呟いた瞬間、目頭が熱くなった。視界がにじんでいき、こらえきれずに頬を伝い落ちた涙をすばやく拭う。

「どうしたの」
「ん……美味しすぎて」
「なんだそれ」

 西嶋が困ったように笑う。

 なぜ自分が泣いているのか、涼子にはわからなかった。哀しいからではなく、嬉しいからでもない。ただ心を鷲掴みにされ、激しく揺さぶられているような感覚に戸惑う。

 グラスの中で揺れる濃厚なマホガニー色に、あの人の愛らしい笑顔を見た気がした。いつか自分も――かつてそう憧れを抱いた大人の世界を教えてくれた人。
 記憶を柔らかく包みながら溶かしこむように、熟成された甘みが心に優しく浸透していく。美しい色に身も心も染められ、ふと、涼子は思い出した。

「昨日は七夕だったわね」
「ああ。……忘れてたよ」
「じゃあ、なにか願ってみる?」
「ベランダに出てみようか」

 西嶋は、優しく提案してくれた。

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