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琥珀色に染まるとき
第10章 マホガニー色の幻

「でもそこの店主は、若造二人に丁寧に酒を教えてくれた。飲ませてもらった酒も美味くてな、一気にファンになった。何度か通って、弟子にしてくれと頼みこんだんだ」
「すごい熱意……」
「我ながら突飛なことをしたと思うよ。未経験の学生に弟子にしてくれと頼まれて、それを受け入れた師匠も師匠だけどな」
「きっとその方は、あなたになにかを感じたのね」
「直感の必然性を信じろ。あの人の口癖なんだよ」
「へえ。素敵ね」
嬉しそうに師を語る西嶋に柔らかな笑みを返し、涼子はそこから先の光景を想像した。
バーのユニフォームを見にまとう長身。店内の掃除、グラス洗いにグラス磨き、ボトル拭き、アイスピックを握り氷を削るその手――。見習いとして懸命に働きながら接客と酒を学び、カウンターに立つ日を待ちわびるその姿を。
「涼子は?」
「え?」
「どうしてボディーガードになったの」
突然の質問に戸惑う。だが、今日話すと決めてここに来たのだ。涼子はウイスキーを口に含むと、それがゆっくりと喉を通り抜けるのを待った。
その沈黙になにかを感じたのか、西嶋は静かにこちらを見下ろしている。
「昔ね、ある人からウイスキーの話をいろいろ教えてもらったの」
「うん」
「私はまだ十九歳だったからお酒が飲めなくて。でもすごく愉しそうに話す人だったから、影響されちゃったのよ。その人が好きだったのは、マッカランと、なんだったかしら……名前は忘れたけど、彼氏に影響されて好きになったって言ってた。その人の彼も、バーテンダーだったの」
「…………」

