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琥珀色に染まるとき
第10章 マホガニー色の幻

「西嶋さんにとってのお師匠さんみたいに、私にとって彼女は、かけがえのない恩人だったのよ」
「そうか」
返事がそっけないのが少し気になり、つまらないだろうかと思ってその顔を見上げる。そこには、優しくて、哀しい笑みがあった。
「涼子がボディーガードになったのは、その人のため?」
「…………」
「その人を護りたいから?」
「私は……」
いざ核心に触れるとなると、口ごもってしまう。他人に打ち明けるのは初めてで、どんな反応が返ってくるか考えると恐ろしくなる。
これで本当に見限られてしまったらどうしよう。グラスを持つ手が震える。
不意に、そっと肩を抱かれた。
「涼子は、星になにを願う?」
「え、っと……考えてなかったわ」
「なんだよ。言い出したのはお前だろう」
「……じゃあ西嶋さんは?」
「俺は」
彼はそう言って一瞬間をおくと、肩を抱くその手に力を込め、こう続けた。
「これからも、涼子と一緒にいられるように」
「……っ」
またしても、心を読まれ、助け舟を出されてしまった。まるで夢のような甘い言葉で。もしかしたら冗談かもしれない。だが、それでもよかった。
身をかがめた彼に、涼子は自ら顎を上げ、目を閉じた。星の見えない朝空の下で交わしたキスは、ザ・マッカランのリッチな香りがした。

