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琥珀色に染まるとき
第2章 噂のバー店主

しかし、女の次の一言が、男を混乱させた。
「誘うなんてそんな……違います!」
「え、違うの?」
「噂は聞いたけど、実際にお話ししてみたらそんな人じゃないってわかりました。だからもし、マスターさんさえよければ、私……」
「ちょっと待った。まさか、この人を本気で口説こうとしてる?」
「く、口説くとか、そんなんじゃ……」
わかりやすく反応する女に、男は呆れたように笑う。
「図星か。だけどいくらマスターが超絶イケメンでも、惚れるの早すぎじゃない? この人、見た目は若いけど君よりだいぶ年上だよ」
「あ、年齢とか気にしないので」
「へえ。おじ専か」
感心したように呟く男だったが、唐突に、あっ、と声をあげた。
「でも、君より俺のほうがマスターの好みに合うと思うよ。女の子は趣味じゃないみたいだから」
女の視線が、景仁を突き刺した。赤く染まっていたはずの小さな顔は、みるみるうちに青ざめていく。
なにもここまで追いつめなくてもいいだろうに、と半ば呆れながらも、景仁は妖艶な笑みを女へ向けた。
「ひっ……あ、あの、ごめんなさい。私、知らなくて」
窒息しそうになりながらそれだけ言った女は、怯えたように帰り支度を始めた。それからはあっという間だった。女は震える手で会計を済ませ、突風のごとく店を出ていった。
気の毒だが仕方ない。女のためだ。もう二度と、間違った恋心で容易にこの世界に足を踏み入れないように。

