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琥珀色に染まるとき
第2章 噂のバー店主

 店内に男二人きりになったところで、若者が笑いながら切り出した。

「さっきの笑顔はさすがに怖かったよ。あの子、めちゃくちゃびびってたし」
「響。何度も言っているけど、俺はノーマルだよ」
「わかってるって。ただの冗談」

 響(ひびき)は親しげに言うと、片目をつむってみせた。
 そのキラースマイルに苦笑を返しつつ、ベストの腰ポケットに手を忍ばせて懐中時計を確認すると、まだ十時を過ぎたばかりだった。

「お前、今日は来るの早かったな。仕事は休みか」
「うん。でもさっきまでデートしてた」
「大変だな、ナンバーワンホストは」
「別に普通だよ。なにもしないでお客さんにお金使ってもらおうなんて、そんな甘い世界じゃないぞ、ってマスターが教えてくれたんでしょ」
「そうだったかな」
「はぐらかすなよー」

 人懐こい笑みを浮かべた男――。この界隈をよく知る者であれば、その美形を目の前にした時点で、有名ホストだと気づくはずである。
 そうでなかったとなると、あの女が夜の街に頻繁に出入りする人間でないことはあきらかだ。あの様子では男遊びも知らないだろう。そんな女が一人で夜のネオン街にやってきて、こんな場所まで足を運び、疑似恋愛を体験しようとでもいうのか……。

「ねえ。結局のところ、噂は本当なの?」

 ロックグラスをからりと鳴らした響が、妙な質問を投げてきた。

「どの噂かな」
「女を食い漁ってるって」
「さあね」
「あ、またはぐらかした……」

 呆れ顔の響は、ウイスキーを一口飲み、話を続ける。

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