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琥珀色に染まるとき
第11章 BETWEEN THE SHEETS

景仁は、ルームウェアを着るとキッチンへ向かった。あくびをしつつ、のんびりとコーヒーを淹れる。
物音がして振り向くと、黒いスリップを身にまとった女が、けだるげな仕草で髪をかき上げる後ろ姿が目に入った。カーテンの隙間から差しこむ淡い光が、薄暗い部屋に立つ美しい女体に艶めかしい影を作る。
「お前も飲むか?」
手にしたマグカップを胸の高さまで上げてみせると、彼女は穏やかな表情で頷いた。
「着替えてくるわね」
「いや、いい」
「え」
「そのままベッドで待っていてくれ」
言いながら、もう一つのカップにサーバーからコーヒーを注ぐ。涼子は不思議そうにこちらを見つめていたが、観念したようで寝室に戻っていった。
そのあとを追い、ベッドサイドに歩み寄る。彼女にカップを一つ手渡してベッドに上がり、並んでヘッドボードに寄りかかった。
芳醇な香りが二人の間をゆったりと流れる。同時に一口飲み、ほっと息をついたところで、不意に彼女が呟いた。
「なんだか贅沢」
「ん?」
「ベッドでコーヒーなんて」
「そう?」
「そんな習慣、昔からなかったもの」
「まあ普通の家庭はしないか」
「うん。そんなことしたらきっと叱られたわ」
その苦笑混じりの固い声には、ただならぬ緊張感が漂う。今まで隠していたなにかを、涼子は自分に打ち明けようとしている。景仁はそう確信し、黙って次の言葉を待った。
「私の父は、わりと考えが古くて厳しい人だから」
コーヒーをまた一口飲んで、彼女は続ける。
「今の仕事に就いてからはほとんど会ってないの。忙しいっていうのもあるけど、それ以前に、もう接し方を忘れちゃったのね。お互いに」
その落ち着いた声は、強がりを孕んではいない。だが薄く笑んだその横顔には、いっさいの音を遮断する閉所に身をひそめるように、なにかを諦めてしまったような孤独な静けさがある。

