この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
琥珀色に染まるとき
第11章 BETWEEN THE SHEETS

「お母さんは……」
「十四のときから会ってないわ。男と蒸発したの」
この女は独りだったのだ、と景仁は思った。今まで独りきりで、孤独に耐えながら、精一杯強がって生きてきたのだ。
“恩人”との思い出を護るために――。
「西嶋さん」
「……ん?」
「昨日、話しそびれたことがあるの。この、傷のこと」
左胸を押さえながら、涼子はぽつりと言った。次の瞬間、なにかを言いかけた彼女から、景仁は言葉を奪った。
「もういいよ」
「……っ」
「いいんだよ、涼子。無理に話さなくて」
彼女の手からマグカップを抜き取り、自分のと一緒にサイドテーブルに置く。怯えた視線をよこす彼女の肩を抱き寄せ、柔らかな二の腕をさする。
「真面目すぎるよ、お前は」
しばらくこちらの顔色を窺っていた涼子が、肩にもたれかかってきた。その小さな頭に唇を寄せて黙っていると、か細い声が聞こえた。
「一緒にいてくれるの?」
自信なさげに尋ねられ、無性に愛おしさが湧き上がる。
「どうしてそんなこと聞くんだ」
「だって……」
「俺は星にまで願ったんだぞ。悪いが、いまさら取り消す気はない」
「……変な人」
「ん?」
「変わり者……物好き……変態……」
はらはらと涙を流しながらも、その儚いさまに似つかわしくない言葉を並べられ、思わず笑いがこぼれてしまう。
「なんとでも言え」
彼女を腕の中に閉じこめ、乱れたシーツに無理やり引きずり込むと、その濡れた頬が柔らかく微笑む気配がした。
どうか気づかないでくれ、と景仁は願った。
――こんな思いをするのは、俺だけで十分だ。
ひとしきり肌を重ね合わせたあと、再び浅い眠りについた涼子を子供のようにかき抱いて、景仁は目を閉じた。そのぬくもりを確かめるように。
――もう、失いたくない……。
夢の中で彼女も言ってくれたという愛の言葉を、もう一度その口から聞けるときを信じて。

