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琥珀色に染まるとき
第11章 BETWEEN THE SHEETS

「お母さんは……」
「十四のときから会ってないわ。男と蒸発したの」

 この女は独りだったのだ、と景仁は思った。今まで独りきりで、孤独に耐えながら、精一杯強がって生きてきたのだ。
 “恩人”との思い出を護るために――。

「西嶋さん」
「……ん?」
「昨日、話しそびれたことがあるの。この、傷のこと」

 左胸を押さえながら、涼子はぽつりと言った。次の瞬間、なにかを言いかけた彼女から、景仁は言葉を奪った。

「もういいよ」
「……っ」
「いいんだよ、涼子。無理に話さなくて」

 彼女の手からマグカップを抜き取り、自分のと一緒にサイドテーブルに置く。怯えた視線をよこす彼女の肩を抱き寄せ、柔らかな二の腕をさする。

「真面目すぎるよ、お前は」

 しばらくこちらの顔色を窺っていた涼子が、肩にもたれかかってきた。その小さな頭に唇を寄せて黙っていると、か細い声が聞こえた。

「一緒にいてくれるの?」

 自信なさげに尋ねられ、無性に愛おしさが湧き上がる。

「どうしてそんなこと聞くんだ」
「だって……」
「俺は星にまで願ったんだぞ。悪いが、いまさら取り消す気はない」
「……変な人」
「ん?」
「変わり者……物好き……変態……」

 はらはらと涙を流しながらも、その儚いさまに似つかわしくない言葉を並べられ、思わず笑いがこぼれてしまう。

「なんとでも言え」

 彼女を腕の中に閉じこめ、乱れたシーツに無理やり引きずり込むと、その濡れた頬が柔らかく微笑む気配がした。

 どうか気づかないでくれ、と景仁は願った。

――こんな思いをするのは、俺だけで十分だ。

 ひとしきり肌を重ね合わせたあと、再び浅い眠りについた涼子を子供のようにかき抱いて、景仁は目を閉じた。そのぬくもりを確かめるように。

――もう、失いたくない……。

 夢の中で彼女も言ってくれたという愛の言葉を、もう一度その口から聞けるときを信じて。


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