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琥珀色に染まるとき
第12章 幸福な憂心のまま
第十二章 幸福な憂心のまま
始まりは、大学一年生の冬――。
十二月で十九歳になったばかりの涼子は、ある男と知り合った。
通学中の電車内で痴漢に遭っていたところを、サラリーマンの男に助けてもらった。それがきっかけで彼も毎朝同じ時間の電車に乗っていることを知り、見かければ互いに話しかけるようになった。
誠実を絵に描いたような男だった。きっちりとスーツを着こなす社会人は、大学生から見ればそれだけで立派な大人だ。素敵な人だ、と思った。しかし、多少の憧れはあっても、特別な感情を抱くことはなかった。
知り合って一ヶ月ほど経ったある日。いつものように駅のホームにいた男から、実にさりげなく連絡先を聞かれた。不快には思わなかったので、特に疑うこともなく電話番号とメールアドレスを教えた。
思えば、それが大きな間違いだったのかもしれない……。
ほどなくして大学は春休みになり、涼子が朝の時間帯に電車に乗ることはなくなった。そのかわりに、男から毎日のように連絡が入るようになった。会いたい、と。なにかが変だと思ったときにはもう遅かった。
男からの連絡は次第にエスカレートしていき、一日に何度も電話が鳴ったり、意味不明な長文メールが送られてきたりもした。怖くなった涼子は、もう会うことも、連絡を取り合うこともできないという旨をメールで伝えた。それでも途絶えなかった着信音に辟易し、ついには男からの着信を拒否した。
春休みが明けて二年生になると、男に遭遇することを恐れ、いつもと違う時間の電車で通学するようになった。
そんなある日、駅のホームで偶然一緒になった同級生の男子と話していたところ、あの男と鉢合わせてしまった。憤慨した男に公衆の面前で怒鳴られ、周りの人々から白い目で見られた。