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琥珀色に染まるとき
第2章 噂のバー店主

「ここ、さっきの子みたいなマスター目当てのお客が絶えないよね。うちの店にもたまにマスターファンが来るけど、みんなおもしろい噂話してるよ」
「へえ。どんな?」
素知らぬふりをして聞いてみると、それを待っていたとでもいうように響はにやりと笑い、カウンターの上で女のように両手で頬杖をついた。
「優しそうなのに妖しいあの視線! あれに捕まったら最後、泥沼に引きずり込まれるのよ。お店の名前にはきっとそういう意味があるんだわ。ああん、素敵」
「そりゃ誰の真似だ」
「サナエさんとこの明美ちゃん」
「ああ……」
その女には声をかけられたことがある。この近くのスナックに勤めていると聞いた。虚言壁があり、嘘も多く、おまけに依存体質。残念ながらたちの悪い部類に入る女だ。
寂しさを埋めるためだけに男を誘っているふしがあるため、一度やんわりと断ってから適当にあしらってはいるが、今でもたまに店に来ては、カウンターの上で頬杖をついて豊満な胸の谷間を見せつけてくる。
「しっかし、おもしろいよね。噂がどんどん独り歩きしてさ」
「誰かの冗談も不本意な噂を広める手助けをしているみたいだがね」
「でも営業妨害にはなってないでしょ。むしろ売り上げに貢献してると思うけど」
そこまで話して満足したのか、響はグラスに唇をつけると大きく呷った。
景仁は、透明な氷だけになったそれを受け取りながら、まったく生意気なガキだ、と心の中でこぼし、苦笑する。三年前に初めて知り合った頃は右も左もわからなかった小僧が、こうして偉そうな口を叩くようになるのだから、なんともほほえましい話だ。

