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琥珀色に染まるとき
第2章 噂のバー店主

 新しいグラスに丸氷を落とし、ウイスキーを注ぐ。バースプーンでステアしてやると、氷に透過した琥珀色がまるで宝石のように光を放った。
 差し出されたグラスを手に取った響は、自身と同じ名のウイスキーが放つ煌めきを眺めながら呟く。

「店の名前の意味、ね……」
 
 その言葉を景仁もひそかに反芻し、小さく息を吐いた。

 ネオンサイン煌めく都内一の歓楽街。欲望渦巻くメインストリートから一本それた路地。無機質な建物が並ぶその薄暗い通りの一角に佇む、九階建て雑居ビル。
 その七階でひっそりと営業しているのが、BAR Clay――カウンター席十席だけの小さなショットバーだ。景仁がオーナーバーテンダーとして、一人で店を切り盛りしている。
 たしかに噂にあるように、“clay(クレイ)”という単語は泥や粘土という意味を持つが、泥沼に引きずり込むなどという不吉な由来で自分の店を名付けたわけではない。

 バックバーに戻そうと手にした響十七年のボトルを持ったまま、目を伏せて思案していると、ふふっと笑い声が聞こえた。
 顔を上げてみれば、響がその端麗な顔に意味深な笑みを浮かべている。

「なんだい」
「いや、物思いにふける表情も色っぽいなと思って。今のは男でも惚れるよ。やっぱりそっち路線もいけるんじゃない?」
「勘弁してくれ」

 けだるく微笑むと、すかさず指摘される。

「だから漏れてるって! 大人の男の色気! まさかわかっててやってる?」
「そんなわけないだろう」

 低く吐き捨て、景仁は静かに口角を上げた。

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