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琥珀色に染まるとき
第2章 噂のバー店主
***
響は、それから噂についてしつこく聞いてくるわけでもなく、あとから来た若いホステスとともに颯爽と出ていった。
彼らが真剣交際していることを知っているのは、景仁と、そのホステスが勤める高級クラブのママだけだ。この店はそんな二人がしばしば待ち合わせをする場所であり、景仁はそれを静かに見守っている。
他人の話を聞いたり相談に乗ったりすることは嫌いではないし、むしろ性に合っている。自らの恋愛には、もっぱら無関心だ。
ブルーのバックライトに照らされた薄暗い店内には、ビル・エヴァンスが流れている。哀愁を誘うピアノの音色に包まれ、景仁はそっとまぶたを下ろした。
こんなふうに一人を実感するとき、思い出すのはいつも昔のことだ。独りきりではなかった、あの頃――。
思い出しかけた面影をふりはらうように、目を開ける。バックバーに向き直ると、中央のスペースから、ザ・マッカラン十八年のボトルを抜き取り、しばし眺めた。
来るはずのない女を待っているような、手応えのない毎日を過ごすことにはもう慣れた。そんな終わりの見えない生活を、もう十年以上続けている。
遠い記憶とともにボトルを棚に戻し、景仁は静かに息を吐いた。
――あなたって他人の世話ばかり焼くのね。もっと自分の幸せを考えなさいよ。
ふと、昔に言われた言葉がよみがえる。
「……そういう性分なんだよ」
自分以外誰もいない静かな店内に、嘲笑混じりの独り言が響いて消えた。