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琥珀色に染まるとき
第12章 幸福な憂心のまま

きつく結んだまぶたの裏に、真耶と恋人の笑顔が鮮明に映し出される。現実には見ることが叶わなかったツーショット。これまで想像でしか見ることのなかったその光景の中に、西嶋がいる。小柄な彼女のかたわらに、長身の彼が佇んでいる。
あんなことにならなければ、いつか実際に見ることになったであろう二人の姿。なぜ、こんな形で、こんな思いをしながら見なければならないのだろう。
彼だけは――西嶋だけは、触られても平気だった。四年一緒にいる城戸にさえ男を感じるだけで嫌悪していたのに、西嶋にはそうならなかった。身体を触られても、強く抱きしめられても、嫌悪どころか、むしろそこにあったのは安堵だった。
触れてほしくて、触れたくて、仕方がなかった。彼に押し開かれたときも、恐怖など感じなかった。優しく、優しく、大切にしてくれたから。心がそう感じたから。
彼と一緒にいたら、過去を克服できるかもしれない――そう信じていた。
十一年前、西嶋から真耶という尊い存在を奪ってしまった。そして、十一年という年月を経て、真耶の最愛の人であった西嶋と関係を持ってしまった。これが、現実だ。
あの酒棚に向き合ったときから、きっと、心のどこかで気づき始めていた。気づかないふりをして彼を求めた。どんなに心が求めても、受け入れてはいけない人だったのに。彼だけは、だめだったのに……。
西嶋は、今までどんな気持ちで生きてきたのだろう。あの優しい笑顔の裏で、どれほど多くの哀しみを乗り越えてきたのだろう。
あの事件で生き残ったほうの人間を、彼は恨んでいたかもしれない。それが自分だと知られてしまったら――いや、もう知られているのではないか。
だから、彼は「クレイ」ではなく「クライ」と言ったのだ。わざと。

