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琥珀色に染まるとき
第12章 幸福な憂心のまま

 彼に漂う孤独は、真耶のためだけにある愛情なのだ。そこには他人が介入する隙間などない。
 抜け落ちていた最後のピースがもとどおりになったパズルには、もう触れることはできない。もう二度と壊されることのないよう、大切に仕舞わなければ。

――もう、会えない……。

 やはり、彼と過ごした数日間は甘い夢でしかなかったのだ。一時的に激しく燃え上がった情欲の炎が、すべてを燃やしつくし、静かに消えただけのこと。大人の男の戯れに便乗させてもらったのだと思って、心にとどめておけばいい。
 大丈夫。まだはっきりと気持ちを伝えたわけではない。まだ、なかったことにできる。

 小さく、呻き声が漏れた。まぶたの奥が熱くなり、呼吸が乱れる。抗えず、涼子は泣き出した。
 身体に残る彼のぬくもりが消えるまで、流れる涙をそのままにしておこう。涙が枯れるまで泣きつくせば、きっとまたもとの生活に戻れる。感傷も孤独も捨てて、自分以外の誰かを護る人生に。

「うっ、うぅ……」

 無理だ――と、心が叫ぶ。
 なにも知らなかった十一年前のように、彼の存在を認識せずに生きることはもうできない。彼の優しさ、思いやり、腕の中の心地よさ、熱を帯びた瞳、痺れるような低い声、色気のある指、厚い胸板……なにもかも知らずにいたあの頃には、もう戻れない。

「西嶋さん……」

 涼子は静かに枕を濡らしながら、もう二度と触れることのない、しかし二度と忘れられない男の気配を抱いて、再び暗い眠りに落ちた。


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