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琥珀色に染まるとき
第13章 忘却の片時雨

五年前まで民間の警護会社にボディーガードとして属していた藤堂は、佐伯の警護をきっかけに引き抜かれ、彼女の秘書兼ボディーガードとなった。佐伯がこの店の常連になったのはその頃からだ。
優秀な人材だった藤堂を警護会社側が簡単に手放したとは思えないが、佐伯が社長らしい手を使ったのだろう。まったく恐ろしい女である。
バー店主と社長秘書――まったく別々の人生を歩んでいるが、藤堂とは高校卒業後二十年近く経った今でも、こうして付き合いを続けている。
きわめて心外なのだが、佐伯には“美しく怪しい関係”といつも茶化される。男同士の友情にとどまらないなにかを匂わせている、と。景仁の男色疑惑がなかなか晴れないのは、特定の女を作らないという理由だけではなく、藤堂の存在にも一因があるのだ。
そんな旧友はマティーニを呷ると、不可解なことを言い出した。
「社長はお前の本性も知りたいそうだ。彼女の噂好きはその真偽を追求するところに由来しているからな。だから、東雲さんをここに連れてきた」
「……どういうことだ」
返す声がこわばった。
「送迎警護の依頼はそのための手段だったんじゃないかってことさ。考えてもみろ。通勤の送迎をわざわざ俺以外の人間にさせる必要があるか?」
「それは俺も不思議に思ったよ。わざわざ指名したんだろ?」
「ああ。かなり強引なやり方だが、彼女ならお前の本性を見抜くと踏んだんだろう。あの洞察力が社長のお眼鏡に叶ったのさ」
「しかし……それを知ってどうするんだよ」
「どうもしないさ。社長は真実を知りたいだけだ」
「真実? おおげさだな。俺は別に今の自分を偽りとは思っていない」

