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琥珀色に染まるとき
第3章 出会いは静かな夜に
第三章 出会いは静かな夜に
自動販売機で買ったブラック缶コーヒーは冷えている。
本当は温かいのを飲みたかったが、残念ながらここの駐車場に設置されている販売機ではお目にかかれなかった。かといって、コーヒーショップまで買いにいく自由はない。
涼子は運転席のシートに背を預け、フロントガラスを伝う水滴を見つめながら冷たい苦味を一気に飲み干した。腕時計に目を落とすと、もう十一時半を過ぎている。
黒塗りのセダンの車内で一人、こうして待機しているのには理由がある。近くの老舗料亭で食事をしている依頼人を私邸まで護送するためだ。連絡を受け次第、すぐに迎えにいく必要がある。
依頼人の名前は、佐伯理香。涼子がつい最近、出張警護を担当した女社長だ。あの案件をきっかけに、今回直々に指名を受けることになった。依頼内容は通勤の送迎警護、本日のみの契約である。
ふだんなら佐伯の秘書が兼ボディーガードとして送迎もこなしているというが、今回はやむをえない事情があり、プロに頼むことになったそうだ。なんにせよ、必要な警護に全力で取り組むのが涼子の務めである。
雨音を聞きながら暗い車内でじっとしていると、スーツの内ポケットから長い振動が伝わってきた。中から仕事用携帯を取り出す。画面に表示された名前を確認し、電話に出た。
「はい、東雲です」
『私よ。やっと終わったわ、お食事会。疲れちゃった』
「お疲れ様です。すぐお迎えにあがります」
『あっ、ねえ』
「はい?」
『帰宅する前に寄りたいところがあるんだけど、お願いしてもいいかしら。少しだけだから』
尋ねてくる声は、なぜか愉快そうに弾んでいる。女社長の鋭い目が優しく弧を描くさまが脳裏に浮かび、少々怪訝に思ったが、仕事としては多少の時間延長は想定内である。選択の余地はない。