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琥珀色に染まるとき
第13章 忘却の片時雨

「ああ。……わかってるさ」

 言い直し、それから言葉は続かなかった。藤堂もなにも言ってこなかった。意図的に避けている話題があることは、互いによくわかっている。

 時間が止まったように静かな店内には、真耶が生前好きだった曲が流れる。この曲を聴くたび、彼女はよくピアノの音色に合わせて歌詞を口ずさんでいた。
 バックバーに向き直り、中央のスペースに歩み寄る。そこに隣り合って並ぶ二つのボトル――それぞれのラベルに刻まれる、“THE MACALLAN”、“CRAIGELLACHIE”の文字をまぶたに焼きつけたまま、景仁は目を閉じた。

 遠い過去の女の面影が、ぼんやりと浮かんで消えた。

 そうして、ゆっくりとまぶたを開いたときに偶然目に入ったのは、“CAOL ILA”の文字だった。はっ、と苦笑をこぼし、それを見据えて口を開く。

「藤堂」
「なんだ」
「俺は、あの女に……惚れてる」
「俺に言うな。本人に言え」

 その冷めた声に振り向いてみると、グラスを傾ける藤堂の表情が心なしか愉快そうに見えた。

「残念ながら直接言う機会がなくてな」
「そのうちまた来るだろ」
「まるで他人事だな。いや、たしかにお前にとっては他人事か」
「おい」
「ん?」

 藤堂はしばらく考えこんでいるようだったが、唐突に妙なことを語り出した。

「そういえば彼女、まやさん、て言ったよな」
「は?」

 記憶をたどってみても、涼子の口から真耶の名を聞いた覚えはない。

「あの日、急に頭を押さえて苦しそうにしただろう?」

 ああ、と相づちを打ちながら思い返す。明美との会話の途中で、それは突然起こった。

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