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琥珀色に染まるとき
第13章 忘却の片時雨

「そのあとだよ。お前が声をかける直前。聞いてなかったのか」
涼子がうわ言のようになにか言っているのはわかったが、そこまで気が回らなかった。彼女の異変に自身も少なからず動揺していたのだと、景仁は今になって気づく。
「あのとき、一番冷静だったのはお前だろうな」
なんだか情けなくなり自嘲気味に言うと、そりゃどうも、と答えたきり藤堂は黙りこんだ。やがて、肩を小刻みに震わせ笑い始めたのだった。
「まったく妙な話だ。仮にお前たちの過去が繋がっていたとして、互いのことを忘れていなければ惹かれ合うこともなかっただろうからな」
「ああ……さあな。どうだろう」
そんな曖昧な返事も気にならない様子で、藤堂は続ける。
「もし真耶がお前たちを引き合わせたんだとしたら、どういう意図なのか聞いてみたいよ。もう過去のことは忘れろ、とか?」
「はは……なんだそれ」
「過去にとらわれるなよ。もう昔のお前は忘れて、前に進め。ほかの誰が非難しても、俺はしない」
それは、なにかを覚悟したような口ぶりだった。
「はは……格好つけやがって」
景仁は小さく吐き出すと、穏やかな表情でグラスを傾ける友人の姿を静かに見守った。

