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琥珀色に染まるとき
第13章 忘却の片時雨

ソファーから腰を上げ、頼りない光が差しこむ窓辺に歩み寄る。遠くの空は青く晴れているのに、こちらでは雨が降っている。
片時雨か、と心の中で呟き、色のない湿った景色を見つめながら藤堂の言葉を反芻した。
――昔のお前は忘れて、前に進め。
真耶という太陽が永遠に沈んでしまってから、晴れの日より雨の日にいっそう強くその面影を感じた。雨声を聴くたびに、忘れないで、と言われているような気がした。子供じみた妄想だが、彼女の真意を確かめられない絶望感が余計にそう思わせた。
だが涼子と出会い、少しずつ変わっていく自分に直面した。喫茶店で時間をともにしたあの日から、雨の降る日には涼子を想うようになっていた。
涼子と引き合わされ、心を激しく揺さぶられた。藤堂の言っていた佐伯の思惑は、間違ってはいない。長いこと放棄していた心の真偽をようやく糾(ただ)すことができると、景仁自身も思っていた。
真耶の死によって信じることを諦めそうになっていた、人の縁を、もう一度信じてみようと思えた。
それがこんな結末を迎えることになると、誰が予想できただろう……。
涼子との交わりは、不都合な事実だけを心に残した。真実を晒す前に、終わらせるしかなかったのだ。
涼子を自宅に招いたあの日から、もう四ヶ月近く経つ。あれ以来、彼女は一度も店に来ない。ついに彼女も気づいたのだ。このまま会わないつもりかもしれない。

